頭痛の原因
頭痛は ①末梢神経の興奮 と ②中枢神経の反応 のかけ算で生じます。
すなわち、末梢神経がどれだけ興奮しても、中枢神経が反応しなければ痛みは生じません。スポーツ選手は試合中に痛みを感じなくても、試合後に痛みを感じることがあります。叩かれた相手が好きな人なら、喜んぶ人も世の中にはいるでしょう。
慢性片頭痛の人は、中枢神経が過敏であるため、わずかな刺激でも強い痛みとして感じ、吐き気などの副症状を伴います 緊張型頭痛と片頭痛の主な違いは、中枢神経がどの程度反応しているかという点です。
緊張型頭痛では、頭頚部の筋肉痛をそのまま脳が感知して起こります。 一方で、片頭痛は、三叉神経のセロトニン濃度が低下したとき、頭頚部の筋肉痛などの刺激が三叉神経を過剰に興奮させ、硬膜の脳血管が拡張します。これにより、強い頭痛が生じるのです。
①頭痛を引き起こす要因(末梢神経の興奮)
頭蓋外
頭皮や頭頚部の筋肉、血管や骨膜を通る末梢神経
頭蓋内
頭蓋内主幹動脈(内頚動脈や中大脳動脈、椎骨動脈など)、硬膜と静脈洞、硬膜動脈や脳軟膜動脈の末梢神経
なお、脳は中枢神経そのものであり、痛みを感じる末梢神経が存在しませんので、脳梗塞や小さい深部の脳出血が生じても頭痛は起こりません。
②頭痛を感じる要因(中枢神経の反応)
脳実質
三叉神経脊髄路核、視床、大脳皮質の体性感覚野
中枢神経感作
神経の可塑性
精神的要素
うつ病など
痛みは、原因が生じても脳が反応しなければ感じられません。
また脳は適応能力が高いため、痛みに慣れて感じなくなることもある一方で、痛みをより敏感に感じるようになることもあります。
これを中枢神経感作と呼びます。
頭痛の種類
一次性頭痛
緊張型頭痛
肩こり等が原因とされる。締め付けるような頭痛で、痛み以外の明確な症状は伴わない。
片頭痛
悪心や過敏症状などの脳の反応を伴う。
片側の拍動するような頭痛や両側に圧迫感を伴う頭痛が特徴で、しばしば休息や睡眠が必要となる。
群発頭痛
涙や鼻水、発汗などの自律神経症状を伴い、必ず片側の目の奥またはこめかみに生じる痛みが特徴。
この痛みは通常3時間以内には治まるが、1~2ヶ月の期間中に繰り返し発生する。
その他
特定の原因、例えば冷たいアイスクリームの摂取による「アイスクリーム頭痛」や咳嗽や運動に起因する頭痛など。
二次性頭痛
外傷性頭痛
頭部に直接的な外傷を受けた時に生じる。頭皮や骨膜の末梢神経で感じる頭痛。
くも膜下出血
脳の主幹動脈が破裂し、大量に出血することで生じる。
急激に頭蓋内圧が上昇するために硬膜が引き延ばされて感じる頭痛で、発症から5分以内に最も重症化する頭痛であることが多い。
脳腫瘍
脳腫瘍自体や周囲の浮腫、水頭症により頭蓋内圧が高まるために、硬膜が引き延ばされて生じる頭痛。鎮痛剤を使用しても繰り返し発生する。
髄膜炎
脳や脊髄の周囲を循環している脳脊髄液が感染することで、硬膜や脳血管に炎症が生じて頭痛が発生する。
発熱もあり、後頚部が硬くなって俯きにくくなる。
有痛性脳神経ニューロパチー
三叉神経痛
片側の顔面が触れなくなる虫歯のような痛みが走る頭痛。
痛い方では噛めなかったり、顔が洗えなかったりすることもある。
後頭神経痛
片側の後頭部から側頭部にかけて痛みが走る頭痛。
耳の直前までは感じるが、こめかみや前頭部には生じない。
帯状疱疹
頭や体のどこかにピリピリした痛みや痛みが走るが、先に痛みが出て、後から湿疹が出ることもあり、三叉神経痛や後頭神経痛と診断されてしまうことがよくある頭痛の原因。
その他
特定の部位に、ピリピリとした痛みを感じたりや痛みが走る頭痛。
この病気では、湿疹が出る前に痛みが現れることも多いため、三叉神経痛や後頭神経痛と間違えられることがよくある頭痛。
頭痛の注意点
- 初めての頭痛や通常と異なる症状の頭痛が発生した場合、脳神経外科医、脳神経内科医、あるいは頭痛専門医への相談を強く推奨します。可能な場合、MRI検査も受けることをおすすめします。
問診は患者さんの主観に基づく情報のため、問診だけで頭痛を診断することは困難です。
頭痛診療においては、MRI検査のような客観的な情報が非常に重要です。
くも膜下出血や可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は、多くの場合、急性の強い雷鳴性頭痛を引き起こすことが知られていますが、緊張型頭痛と同様の軽い痛みしか感じないこともあるため、注意が必要です。 - 頭痛は一般的な病気であるため、軽視されがちです。
片頭痛は生活や仕事に大きな影響を及ぼす頭痛の一つですが、命に直接の影響がないため、市販薬を継続的に服用している患者さんも少なくありません。実際、片頭痛患者さんの約8割がこのような状態です。
また、肩こりがあれば緊張型頭痛ではないかと、医師も気軽に鎮痛剤を処方することが多く、注意が必要です。
受診すべき頭痛の兆候(SNNOOP10リスト)
受診すべき頭痛の兆候を以下に示します。主に、二次性頭痛の可能性がある症状が記載されています。
もちろん、このリストに載っていないもので、日常的に感じている頭痛や、鎮痛剤で和らぐ、または寝ることで改善するような症状でも、受診することをお勧めします。慢性的な頭痛はすぐには治るものではありませんが、根気よく治療を受け続けることで、より良い生活の質を手に入れることができるかもしれません。
説明 | 疾患 | |
---|---|---|
A. 突然感じた頭痛(雷鳴性頭痛) | 突然急に(1分~5分以内)に最強の痛みを感じた頭痛 | ①くも膜下出血、②脳出血、③脳静脈洞塞栓症、④RCVS、⑤下垂体卒中、⑥脳血管炎、⑦低髄圧症候群 |
B. いつもと違う頭痛 | 今までに経験したことのない頭痛を感じた場合、21%に脳の病気が見られます。 | ①脳静脈洞塞栓症、②脳腫瘍、③脳血管性障害、④その他 |
C. 進行性に悪化する頭痛 | 徐々に酷くなっていく頭痛 | 脳静脈洞塞栓症 |
D. 発熱などの全身症状を伴う頭痛 | 発熱を伴う頭痛に加えて、意識障害や麻痺など神経症状が出現する頭痛 | ①髄膜炎、②脳炎/脳膿瘍、③カルチノイド、④褐色細胞腫 |
E. 手足の麻痺が生じた頭痛 | 脳梗塞よりも脳出血の方が頭痛を感じることが多いです。ただし頭痛の重症度は病変の大きさとは関係ありません。 | ①脳出血、②前兆のある片頭痛、③脳梗塞、④脳炎、⑤脳腫瘍 |
F. 50歳を過ぎてから感じるようになった頭痛 | 50歳以上の慢性頭痛は、50歳以下の10倍(15% vs 1.6%)、脳疾患を認めます。 | ①巨細胞性動脈炎(50歳以上)、②脳卒中、③脳腫瘍、④非血管性障害 |
G. くしゃみや咳、運動時や排便時に感じる頭痛 | 後頭蓋窩病変の可能性があります。他に笑った時や重たい物を持った時などで感じます。 | ①アーノルド・キアリ奇形、②後頭蓋窩病変(小脳腫瘍など)、③髄膜炎、④閉塞性水頭症、⑤外傷性出血、⑥椎骨動脈解離などの脳血管障害 |
H. 涙や鼻水などの自律神経症状を伴う眼痛 | 目の充血を伴う事もあります。 | ①群発頭痛などTACs、②Tolosa-Hunt 症候群、③下垂体卒中、④海綿静脈洞病変、⑤後頭蓋窩病変、⑥緑内障など眼科領域疾患 |
I. 乳頭浮腫のある頭痛 | 乳頭浮腫を認めた場合、眼科疾患の可能性は低く殆どが原発性脳腫瘍です。 | 脳腫瘍 |
J. 姿勢により変化する頭痛 |
脳腫瘍で頭蓋内圧亢進していると臥床で増悪し早朝頭痛を自覚します。 髄液漏では、臥位で改善し立位や座位で悪化しますので起き上がれなくなります。 |
①低髄圧症候群(腰椎穿刺後頭痛など)、 ②脳腫瘍 |
K. 外傷後に続発した頭痛 | 女性や救急搬送者は頭痛が遺残しやすく、若年者で頭痛を生じた場合や画像検査異常があれば、急性外傷後頭痛を生じやすくなります。 | ①急性/慢性外傷後頭痛、②急性/慢性硬膜下血腫、③内頚/椎骨動脈解離 |
L. 妊娠・産褥期の頭痛 | 妊婦の5%に初めて感じる頭痛が発生し、25週〜分娩期や産褥期に多く重症例が多い。 | ①妊娠高血圧症候群、②下垂体腺腫、③脳内出血、④くも膜下出血、⑤RCVS、⑥脳静脈洞塞栓症、⑦子癇前症、⑧硬膜穿刺後頭痛(無痛分娩時) |
M. 癌経験者 | 癌経験者に初めて感じる頭痛があると、半数に転移性脳腫瘍を認めます。 | 肺がん、もしくは乳がん患者の脳転移(転移性脳腫瘍) |
N. 薬物乱用性頭痛 | 鎮痛剤使用過多による頭痛 | 薬物乱用性頭痛(MOH) |
O. HIVなどの免疫不全がある人の頭痛 | 頭痛はHIV感染者の34~61%に自覚されます。 | ①脳性トキソプラズマ症、②脳原発性悪性リンパ腫、③進行性多巣性白質脳症、③無菌性髄膜炎 |
Do TP, Remmers A, Schytz HW, et al.:Red and orange flags for secondary headaches in clinical practice:SNNOOP10 list. Neurology 2019 92(3):134-144 を、我妻(あづま)が編集して作成。
頭痛の対策法
急性の場合
上記を参考に医師にかかることをお勧めします。
慢性の場合
慢性的に頭痛がある方は頭痛日記をつけて、医師にかかることをお勧めします。
頭痛日記をつける時のポイント!
頭痛の強さを明確に記録
3+ 重度の頭痛 | 仕事や家事が全くできない程度の頭痛(実際には無理して行ったとはいえ) |
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2+ 中等度の頭痛 | 仕事や家事には取り組めたものの、頭痛の影響を感じた。 |
1+ 軽度の頭痛 | 仕事や家事に影響しない程度の頭痛 |
0 | 頭痛なし |
頭痛の特徴も記録
頭痛に伴って生じた症状について記載しておきましょう。
(脈)脈打つような頭痛 (重)重たい頭痛 (は)吐き気を伴う (吐)嘔吐した (光)光が気になる (音)音が気になる (匂)匂いが気になる
使用した薬の情報
どの薬を飲んだかを明記し、2時間以内に頭痛が消失したかどうかを記録しましょう。
その他の関連情報
生理の有無、社交的なイベント(例:飲み会)、天気の変動なども記録しておくと、頭痛のトリガーを見つけやすくなります。
頭痛日記ツールの利用
頭痛日記やダイアリー用のアプリや日記帳があるので、それらを利用して簡便に記録しましょう。
頭痛の原因項目に記載した通り、痛みは①末梢神経の興奮 と ②中枢神経の反応 のかけ算で生じます。
頭痛や頚部痛、背部痛や腰痛の原因となる末梢神経の興奮は、その末梢神経が分布している筋肉の過緊張に起因しています。
この筋肉の過緊張は、腱を介して結びついている骨格の異常が原因となります。
たとえば、頭を下げる姿勢を取ると僧帽筋が過緊張し、頚部痛や頭痛が引き起こされることがあります。
したがって、頭を下げる姿勢は避けるよう心掛けましょう。 歩いている時や布団で寝ている時、私たちの脊柱はまっすぐ伸びていて姿勢が良好です。しかし、PC作業や料理の際にはしばしば頭を下げる姿勢になりがちです。このような時の姿勢に注意しましょう。
単に注意するだけでなく、机や画面の高さを適切に調整すること、あるいは立ちながらのPC作業を検討するなど、具体的な対策を考えることが重要です。
頭痛の治療法
頭痛の治療法は、その原因に応じて異なります。
一部の頭痛は鎮痛剤や、風邪薬に含まれる消炎鎮痛剤や解熱鎮痛剤で改善することが可能です。
しかし、頭痛は反復して発生し、慢性化することもしばしばあります。
そのため、頭痛の原因や適切な治療法を知るためには、脳神経外科医、脳神経内科医、または頭痛専門医に相談することが最も確実な方法です。